山行記
立山には剱岳も含めて、日本標高百座が6座ある。私の記憶では99年一ノ越から別山乗越を超えて剣沢キャンプ場で幕営したときに真砂岳も別山もその山頂を踏んだように覚えている。しかし標高百座も残り10座近くまでこぎつけた今、本当に踏んだのか、どうも怪しくなってきたのである。それならば未踏の浄土山・龍王岳と剣御前を登りながら間違いなくその2峰も踏んでこようと計画を立てたのである。
この秋一番の好天が予想された10月13日休暇をとり、立山黒部アルペンルートの扇沢駅に来た。10月の平日とあって観光客はそれほどいないだろうと思ってきたのであるが始発の7時半のトロリーバスは4台が満員になるほどの盛況であった。
黒部ダム、黒部平、大観峰と順調に乗り継ぎ室堂ターミナルには予定の9時半には到着した。室堂ターミナルまで来た観光客の中にこれから立山の登山を楽しもうという客は私以外3人を数えるのみであった。
今日は浄土山から雄山を超えて別山まで縦走し、剣御前小屋で泊まる計画である。予想通り見事に晴れ渡り雲ひとつない青空が広がり、秋色に染まった立山連峰を映している。紫外線がまぶしく久しぶりにサングラスをつける。
一ノ越への道を10分ほど歩き浄土山への道に入る。石畳を積んだ登山道は風情には欠けるが歩きやすくて助かる。立山カルデラの展望台に着く直前に浄土山登山道入り口があった。ここからは登山道は一挙に様相を変えて巨岩・巨石の中を選んで登る。上を見るとかぶさるような岩場に恐怖感が沸いてくる。一歩一歩高度を稼ぎながら攀じ登る。浄土山には室堂から1時間20分掛かって到着した。さらにすぐ隣に屹立する岩峰の龍王岳に進む。わずかな時間で山頂を踏む。
来年には是非にと思う五色が原から薬師岳方面がよく望まれる。その先には黒部五郎岳や笠ヶ岳の特徴ある山頂も見える。遠くには富士山も雲の上に浮かんで見える。衝立のような立山は目の前で、雄山から別山までこれから歩く峰もよく見える。連峰の終点には堂々たる剱岳が控えている。黒部川をはさんで後立山連峰も逆光の中、黒く輝いている。まさに北アルプスの大展望が開けているのである。
しかしここでこの大展望に酔いしれている時間はないのである。
10分ほど休憩し、浄土山に戻り一ノ越への下りに入る。ここは傾斜も程よい登山道で一気に下る。
一ノ越には室堂を出るときは予想できなかった大勢の登山者が休んでいた。昨夜室堂周辺に宿泊した登山者であろうか。私は休むことなく雄山への急登の登山道に入る。
浄土山への登りで体力を使ったせいか少し足が重い。それでもここであえぐ登山者を何人か追い越して立山神社の立つ雄山には12時20分に到着した。神社の前では地元の中学生が学校登山を楽しんでいた。喧騒の中では休む気にもならず、大汝山方面に少し歩いて昼食休憩を取る。
実はここまで秘かに、今日の行程を日帰りで歩こうと思っていたのであるが、雄山を12時に通過できなければ到底室堂への今日中の帰還は無理であることがわかっていたので諦める。足の早い人がうらやましいが出来ないことはするものではないと思う。
20分の休憩を取って気持ちが吹っ切れたこともあり、せっかくの好天の立山をゆっくり楽しもうという気持ちが起きる。立山の最高点・大汝山、そして富士の折立と岩の峰を楽しむ。相変わらず雲ひとつない空の下には室堂平が秋色濃い姿で静まり返っている。剱岳もだんだんと近づいてきて心が躍るのである。
富士の折立からは一気に下り真砂岳に着く。ここは前回パスしたようにも思うのでしっかりと山頂を踏むが標識がない。富士の折立からしばし同行した地元の登山者に先を譲り、次なる別山を目指し白く輝く真砂岳の稜線を行く。何の障害も無い広い気持ちのよい稜線である。やがて、真直ぐ登れば「別山まで250m」の標識が立つ分岐に来た。前回はここを左にトラバースして別山乗越に歩いたようである。今回は別山山頂もぜひ踏まなければならない。
眼前に剱岳が見えると別山神社の立つ別山山頂であった。岩の殿堂剱岳の勇姿にしばらく見とれる。剱岳とは3回目の対面になるがいつも震えるような感動を覚える。別山東峰に回るとさらに剱岳が近くになって感動の極みである。何枚もその勇姿をカメラに収める。見下ろせば2回も幕営した剣沢キャンプ場が一張りのテントもなくひっそりと静まり返っている。
もう本当に来ることは無いであろうと思う剱岳をまぶたに刻むのであった。
そしてこの感動をいつもメールで登頂報告しているM氏にメールを送る。結局別山には1時間ほど剱岳に見とれていたのである。
ゆるい傾斜の別山尾根を下り16時少し前に今日の宿泊地剣御前小屋に到着した。宿泊手続きをとりながら情報を聞く。立山の稜線に立つ小屋は殆どが冬季閉鎖してここ剣御前小屋だけが営業していることを知る。事前調査も無くここまできたことを恥じるばかりであった。もしこの小屋が閉鎖中であったらと思うとぞっとするのである。
剣御前山は小屋から15分のところにあって別山とは違った剱岳を目の前にする。ここでもしばらく剱岳のとりこになるのであった。
再び小屋に戻り、ビールを飲み、持参した三合の日本酒を飲む。夕食も持参したものを食べて、談話室で同宿者と山談義を楽しむ。20時前には布団にもぐりこむとあっさりと眠りに落ちるのであった。
2日目 奥大日岳・大日岳へ
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