山行記
<加治川治水ダムへ>
新発田市東赤谷から湯ノ平温泉小屋方面に通づる道を行くと俎倉山の登山口がある琴沢の橋でゲートが閉められていた。例年なら加治川治水ダムまで開通していると聞いたのであるが、今年は雪解けが遅れているのあろうかと思う。ゲート脇には10台くらいは駐車できるスペースがあり、そこに駐車して登山届けをダッシュボードの見えるところにおいて、1週間のロングラン縦走の重いザックを担ぐ。
今回の山行のパートナーは山友かめ・ふーさんである。昨年も矢筈・青里岳などの難山を一緒に歩いていて気心も充分知れた頼りになる山仲間ではある。ふーさんは幕営道具ではちきれんばかりの100L近い重いザックを背負ってくれる。私も70Lだが食料などではちきれそうなザックである。
トンネルを抜けダム下の公園の桜が満開で、残雪と見事なコントラストを描いている。1時間ほどで加治川治水ダムに到着したが車両通行にはなんら支障ない道路であった。治水ダム管理棟脇の芝生の上にテントを張る。管理棟や近くの公園施設は殆ど施錠されていたが仮設のトイレは使用可能であってありがたい。
テントを張り終えた後は、ダム天場の反対側にある登山口を確認し、入山祭である。担ぎ上げたビールと日本酒を飲みながら焼肉パーテイで入山を祝った。この先ビールは飲めないのである。初日は風も無い静かな夜であった。
<蒜場山を越えて>
4時半には起床して餅入りうどんを啜り、しっかり腹ごしらえして登山口に入る。米平新道と名付けられた登山道は最初から急坂が続きあるバイトを強いられる。最初のポイントが独標であったが、ここではまだダムからはいくらも上がっていなく、ダムサイトの一角という趣である。そこからは緩い尾根道をゆっくりゆっくり登る。ふーさんの長距離歩行の極意である。そして登りついたのが残雪の岩岳で、蒜場山の山頂も望めるようになる。一息入れた後岩場の烏帽子岩を目指す。鎖場もある急傾斜を重いザックを担ぎ上げるのだから体力の消耗が激しい。肩で息をしながら岩場をよじ登り烏帽子岩に立つ。
烏帽子岩から先のヤセオネは雪が解けていて夏道が現れていたのは救いであった。しかしヤセオネを過ぎると本格的な雪渓になりアイゼンを装着する。尾根沿いに忠実に登って行くと所々夏道も現れるが薮も酷いのである。しっかり体力を消耗して山頂稜線の一角山伏峰についた。山伏峰からは完全な雪山で右側には大きな雪庇も張り出していた。雪渓を30分ほど歩いて13時過ぎに最初の目標蒜場山山頂に到着した。越後百山96山目である。治水ダムからは7時間近くを要した事になる。重いザックを担ぎ上げたのだから当然の所要時間かと思う。
一つの目標は達成したがまだまだこの山行の序章に過ぎない。先は遠く長いのである。15分ほど滞頂し、残雪上に残る先行者のトレースを追う。烏帽子岩を過ぎた残雪歩きの最初からトレースがあり、殆ど迷い足が無いことから事情を良く知った先行者である事が確認出来て心強いばかりである。その上曇り空ながらも展望は開けていて、次の目標の烏帽子山も良く見える。そしてそこに続く尾根も特定できるのであるからルートファインディングの心配はないと言うものである。
トレースを追って蒜場山を一気に下る。雪崩の危険もあるかと思うと急ぎ足である。沢筋を下ると烏帽子山方面に延びる尾根に移らなければならない。ここもしっかりとトレースが延びていてちょっと薮っぽいところを通過して尾根の雪提に移ることが出来た。そして小高い丘を一つ越えて、再び高度を下げるとブナ林の中の雪提が続いていた。ここで今夜の幕営地とする。少々疲れたが、今日も山の中とは思えない豪華料理と焼酎で心地よい酔いになり、一夜を過ごすことが出来た。夜半にはブナの梢が風を切っていたが心配することの程ではなかった。
<烏帽子山越えてマグソ穴峰へ>
山中のテント泊というのは緊張のせいか中々眠れるものではない。それでも8時間近く体を横たえて体を休めていれば疲労回復は出来るというものだ。コゲラのドラミングで起きて朝食をとる。そして出発は今日も6時半前である。
快適な雪提を進む。所々藪に入るところもあるが藪の中には明瞭な踏み跡がある。林業の作業道かもしれない。この縦走路の最低鞍部に差し掛かると薮漕ぎとなるが下り100m・登り200m位の距離で余り苦になるほどのことではなかった。最低鞍部を登りきると高立山を巻いていた。かめ・ふーさんが高立山の三角点を確認に行ったが雪の下であった。ここから先は雪原が更に広くなり快適な雪上歩きが続く。
次の目標はブナ林の稲葉の平である。縦走路で一番心休まる場所でもある。更に雪原を行くと丸く小高い丘の大雪原丸子カルであった。丸子カルの丘を越えてゆくと烏帽子山もぐっと迫ってきた。丸子カルから一旦下って烏帽子山を見上げながら休憩する。登り返し300mくらいであろうか。丸子カルとの鞍部は少々怪しい尾根であったが慎重に登りコルに続く大雪原を登りきると烏帽子のコルの到着した。昨年の同時期の記録を見ると最後の雪原でヤブ漕ぎが有ったようだが今年は殆どヤブ漕ぎをせずに烏帽子のコルに着くことが出来たのは幸いであった。
烏帽子のコルにザックを置いて烏帽子山(南峰)の山頂に向かう。僅かな距離と時間で越後百山では最難関といわれる烏帽子山に立って感動の極みであった。山頂は雪も吹き飛ばされた岩場であったが三角点もしっかりと踏めたのである。しかし山頂では強風が吹き荒れていた。
烏帽子のコルに戻って再び先行者のトレースを追う。烏帽子北峰はすぐであって、先ほど登った烏帽子山南峰が屹立して見える。
北峰からの下りは緊張する急坂で、先行者のトレースもここでは少々乱れがちであった。慎重に下って烏帽子の鞍部に下る。雪が解けて春の花が開き始める前であった。そして再びヤセオネや薮の尾根を越えてゆく。中々幕営適地は無いのである。マグソ穴峰を右に巻いて稜線に出るも幕営適地は見つからない。
マグソ穴峰を下ってキンカ穴峰との鞍部に平坦になった雪提にテントを張る。
テントを張り終えて食事をしていると地震でグラッとする。肝を冷やしたが疲労のほうが上である。少しのお酒でほろ酔い機嫌、今日も早目に体を横たえた。
以後の記録はこちら
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