錫杖岳 シャクジョウダケ 標 高 2168m 白旗史郎日本百一名山

山 域

北アルプス
登 山 記 録
登山月日 2005年11月3日
登山経路 中尾温泉駐車場5:55〜槍見館前登山口6:00〜錫杖沢出合7:30〜錫杖の岩小屋8:10/8:20〜稜線10:30〜錫杖岳11:20/11:30〜稜線12:30〜岩小屋15:00〜錫杖沢出合15:30/15:40〜駐車場17:00
行動時間 登り5時間25分 下り5時間30分 合計11時間05分(休憩時間を含む)
天  候 曇り後雨
メンバー 大垣山岳会の4人・山画新内(蕎麦)太夫さん・私

情  報

アクセス 槍見館登山口までは車が入れる
トレイル 錫杖沢から上は沢登りと藪漕ぎであるが赤テープを見失わないように
水場・トイレ 水は沢水が取れる トイレは登山口で
その他 いつかはまたと思わせる山


余裕のポーズで錫杖沢を登りはじめるが・・・・・


山頂は濃い霧と霰の降る最悪の中だった


記念撮影のあと早々に退散


ガスの中にシルエットを映す岩峰(本峰手前の岩)


稜線から笹薮の中を下ると増水した錫杖沢が


烏帽子岩の鋭い岩峰

 
ザイルにつかまりながら滝を下る


雨合羽の下は皆びしょぬれだ


ホウホウの態で下った増水した錫杖沢


無事下って皆の顔に安堵の色が


増水した錫杖沢と夕暮れの烏帽子岩


盛り上がった前夜祭(これが一番)

山行記

2005年最大の目標であった「日本三百名山完登」の夢は、9月北海道を襲った台風14号による河川増水のため、カムイエクウチカウシ山に登山できなくなってしまい、儚い夢と化したのである。
カムエクの登頂が成功していれば、この
113日は深田久弥終焉の茅が岳に山友と集い、日本三百名山完登の記念登山の予定であった。その際に同行登山をお願いしていた方は、ネットのお友達でマルチタレント並みの活躍で知られる山画新内(蕎麦)太夫さん(Yさん)、そしてもう一人、一昨年北海道天塩岳で知り合った大垣のZ女史は「日本の山1000山」を目指し、年間百回以上の山行を重ね、更に海外遠征も豊富なまさに「ウルトラ山キチ女史」(Zさん)である。(来年1月にはオーストラリア遠征も計画しておられるようだ)
私を含めこの
3人は同年生でもあり、お互い中年パワーを爆発させて人生を楽しんでいる。
「日本三百名山完登の夢」が潰えた今日は茅ガ岳を北アルプスの岩山・錫杖岳に代えての登山となったのである。
昨夜、新穂高への入り口・栃尾温泉の民宿「富久の湯」に集ったのは
YさんZさんの他に、岐阜県関市の美濃山岳会のベテランKさん、そしてTさんは女性ながら錫杖岳の前衛・烏帽子岩をクライミングしたと言うほどの岩登りのエキスパートである。更に今回のリーダーで齢70を迎えたと言う「究極のピークハンター」Iさん(ここ数年、毎年150座近い山頂を踏み、大垣山岳会内ではピークハントの数は他を圧倒しているそうだ)と合計6人である。
親しく酒酌み交わすと時間の経つのも忘れ、就寝は
11時半を過ぎていた。

早朝4時半には目を覚まし、酒気の残った体がだるい。それは自業自得というもので弱音を吐くわけにはいかない。私は女性陣の用意してくれた朝食が手につかず、持参した寿司弁当を少し口にした。単独行であればほとんど朝食などとらずに出発するのであるが、今日はシャリバテを起こして迷惑をかけるわけには行かないのである。
深い谷間の夜明けは遅い、まだ明け切らない
6時前に中尾温泉の駐車場を出て、槍見館前の登山口は6時丁度の出発となった。リーダーのIさんは70歳を迎えても健脚である。後方を行く私はみんなから後れがちになるが必死に後を追う。これが昨夜の酒気を抜くのに丁度よい運動となってクリヤ谷の徒渉地点を過ぎ、錫杖沢出会いに着く1時間半後にはしっかりと体調が戻ったのである。
錫杖沢に近くになると上空にヘリコプターが飛び、烏帽子岩でホバーリングをしている。遭難者の救助なのだろうか気が揉める。(後日
33歳の女性クライマーが烏帽子岩で骨折し救助されたことを知る)2時間コースを1時間半で歩いて少し余裕が出る。いよいよ錫杖沢の沢登りである。私はまさか沢登りがあるとは知らなかったのでびっくりしながらも皆の後に続く。

クリヤ谷、錫杖沢を渡り、錫杖沢の左岸の樹林帯に伸びる登山道とはいえない藪の中を登る。まっすぐ行くと烏帽子岩の基部に着くと言う事で、一旦川原に下りて石を拾いながら徒渉を繰り返し、錫杖の岩小屋に着く。大きな岩場の下は狭いながらも広場があり、クライマーがテントを張る場所になっているようだ。ここで小休止をする。
いよいよ錫杖沢を詰めるのであるが、今回で
5回目の錫杖岳と言うZさんは、その都度コースに変化があり、違う道に入ってしまうと言うほどルートファインディグの難しい山だ。しかし今回は一週間ほど前にリーダーのIさんと下見をしてあり、自信を持って案内してくれる。支流があっても迷わず水量の多い本流を遡るのが間違いないルートのようである。
流れも細くなり始めた上部に来ると、高巻くことが難しい滝が連続する。約100m位は、道を右側の水の枯れた支流にとるのがよいのかなと思うのであった。お助けロープやザイルを使い、とにかく本流を水の枯れるまで登りつめる。やがて笹薮の中に伸びる掘割状態の道が現れて、ルートが間違っていないことを確認、リーダー氏もほっと一息つくのである。
沢を詰めている時にはポツリポツリと落ちていた雨も、笹薮に入るころには雨着をつけなければならない本降りとなる。しかし誰も止めようと言うものはない。
烏帽子岩を上から眺めるまでに登るとガスの中に入る。このすばらしい岩山を雨の中歩くと言う無念さと不遇を嘆くのであるが、頂上を極める意欲に全員衰えはない。稜線には
10時半にたどり着く。
稜線分岐には目印の白骨化した枯れ木がありよい目標になっていた。山頂まではここから
1時間と言うことをガイドブックで見ていたので「辛抱をすれば山頂に着く」と気合を入れる。
稜線を右に折れ、リーダーの
Iさんは薮をこぎながら赤テープを見失わないように先導する。しかし稜線に入ればそれなりに踏み跡があり道を失うようなことはない。本峰の岩場にたどり着くと岩と樹林帯の間をトラバースしながら本峰を目指す。一部崩落地点もあるが慎重に突破する。最後は樹林が山頂まで延びている本峰に、木々の根につかまりながらよじ登ると、岩場にピッケルが埋め込まれた山頂に飛び出すことが出来た。
I
さんが私とYさんに先を譲ってくれる。ガスの先に周囲の岩が屹立しているのが見える。そして今立っている山頂が断崖絶壁の上であることもよくわかる。期待した笠ケ岳や穂高岳の雄姿は叶わぬ夢であった。今回が初登頂のKさん・Tさんがピッケルの埋められた岩に立ち万歳をしている。皆この難関・錫杖岳を制して感慨無量の面持ちである。ガスと強風の山頂に霰も落ち始めては長居は出来ない。記念の写真を収めると急いで山頂を後にするのであった。

滑り易いトラバース道を慎重に下り、木立の中で10分間休憩し昼食をとる。しかし寒さと濡れた着衣で立ち止まると震えがくる。稜線分岐に来ると先も読めて安堵するのであったが・・・。
笹薮を急ぎ足で下り、錫杖沢の本流に着くと「さー大変」。
なんと此れしきの雨で、沢が増水し、朝登るときとは様相を一変させているのである。登るときには水を避けながらお助けロープを頼りに何とか登れた滝も、手がかり・足がかりになる岩は水没したり、濡れたりでとても足場にはならなくなっていた。
登りで一番難儀した最上部の3mほどの滝でザイルを出す。ザイルを頼りに順番に滝を下る。しかし、滝のしぶきを浴びて雨着の中まで水が入り、びしょ濡れだ。最後の
Kさんはピッケルを岩場に固定して下降するのであるが、ピッケルがはじけて滑落する。しかし少しの打撲程度で難を逃れることが出来て一安心。またすぐその下でザイルを使う。今度は岩場に割れ目も有って、ザイルが固定できて安心だ。4回ほどザイルを使って滝を下降し、川岸と薮の中に道を選びながら下る。登るときよりも時間が掛かってしまうが、やはり下るほうが楽である。
こういうところは私の得意とすることであって、私が先導する。稜線から
3時間近くかけて錫杖沢分岐に下りついたのは15時半近くになってしまったが、ここで皆の顔に安堵の色が広がるのであった。振り返ると下ってきた錫杖沢がよく見えて無事下りついたことが「本当に良かったなー」と思うのであった。
濡れた体と重い登山靴を引きずりながら長い登山道を
1時間半かけて下る。槍見館の登山道入り口に着いたのは、とっぷりと日が暮れた17時丁度であった。

私は暗闇にまぎれて車の陰でぬれた着衣を全部着替える。
そして露天風呂の荒神の湯に浸かり、冷えた体を温める。
平湯のバスセンターで反省会をと向かうが、生憎くすでに閉店していた。
ここでご一緒した皆さんと、再会を約して安房トンネルを抜けて家路に着いたのである。

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