白馬岳〜日本海へ

白馬岳 シロウマダケ 標 高 2932m 日本百名山

山 域

北アルプス
雪倉岳 ユキクラダケ 標 高 2611m 日本二百名山

山 域

北アルプス
朝日岳 アサヒダケ 標 高 2418m 日本三百名山

山 域

北アルプス
犬ヶ岳 イヌガタケ 標 高 1593m 日本の山1000

山 域

北アルプス周辺
白鳥山 シラトリヤマ 標 高 1287m 日本の山1000

山 域

北アルプス周辺
登 山 記 録
登山月日 2007年7月25日〜28日
登山経路 7月25日
白馬村八方第5駐車場5:50〜バス〜猿倉6:25〜白馬尻7:25/7:40〜村営頂上小屋11:05/11:15〜白馬山荘11:35/11:55〜白馬岳山頂12:10〜三国境〜雪倉避難小屋14:10
7月26日
悪天候の為雪倉避難小屋停滞
7月27日
雪倉避難小屋5:05〜雪倉岳5:45/5:50〜朝日水平道分岐7:50〜朝日岳9:00/9:15〜栂海新道分岐9:40〜長栂山10:15/10:25〜アヤメ平〜黒岩平水場11:45/12:20〜黒岩山〜サワガニ山14:20/14:25〜犬ヶ岳16:05/16:10〜栂海山荘16:20
7月28日
栂海山荘4:50〜菊石山6:20/6:30〜白鳥山8:25/8:35〜坂田峠10:40〜尻高山11:30〜入道山〜国道8号栂海新道入口13:30/13:50〜JR親不知駅15:10
行動時間 7月25日 7時間45分
7月26日 荒天の為避難小屋で待機
7月27日 11時間15分
7月28日 10時間20分
合計 29時間20分 (休憩時間を含む)
天  候 7月25日曇/雨 7月26日雨・霧 7月27日晴 7月28日曇・雨・曇
メンバー 単独

情  報

アクセス 白馬村・猿倉登山口 青海町・国道8号栂海新道登山口
トレイル 朝日岳までは人気の北ア主脈縦走路 栂海新道も良く整備されている 犬ヶ岳から日本海まで樹林帯の中、アップダウン・泥濘が続く厳しいサバイバルコース
水場・トイレ 栂海新道
水場・栂海新道は黒岩平 サワガニ山犬ヶ岳の中間 黄連山の水場 坂田峠の前
トイレ・栂海山荘 白鳥小屋
その他 白馬岳〜朝日岳お花畑が素晴らしい人気の北アルプス主脈北端コース
朝日岳〜犬ヶ岳までは高層湿原が続き結構楽しみがある。
栂海山荘〜日本海までは見所も乏しい

山行記

7月25日
<猿倉〜白馬岳〜雪倉避難小屋へ>

八方第5駐車場に車を停める。第一便のバスに乗って猿倉には6時過ぎの到着となった。売店のテラスに座って朝食をとる。梅雨明けを待ちきれない登山者が続々と登山口に入ってゆく。私も登山届けを出して登山口に入る。3泊4日分の食料を担いでいるがテントが入っていない分荷は軽い。
白馬尻には丁度1時間で到着した。大雪渓の上部には霧が掛かりその全容は見えない。再び歩き始めると霧雨が舞って来て、念のためザックカバーを付けて大雪渓に入る。登山道を歩くときは抜かれることも多いが、雪渓歩きになると私のような小股のピッチ走行のほうが有利で何組かのパーティを追い越してゆく。今年は例年に無く残雪豊富で休憩ポイントの「島」までも雪渓が繋がっていた。舞っていた霧雨も本格的になり、ここで雨着装着する。夏道の岩場に着くころには完全な雨模様となり、がっかりする。「止めようかな」と思うが、気を取り直して前進だ。雪渓のトラバース地点まで来る頃には登山道は水が走り始める。顔を濡らすのがいやなので折りたたみ傘を差しながら避難小屋跡を通過し、休むことなく村営小屋に到着した。既に着衣はびしょ濡れである。
余り休憩を取ると気力が萎えるので10分ほど休憩し、白馬山荘に向かう。天候が更に悪化すれば、今日はここに泊まろうと思うのであったが、稜線に出ると風は強いが雨は上がっていた。白馬山荘の売店の廊下で昼食の弁当を食べる。そして再び霧深き稜線に出て3度目の白馬山頂を目指す。山頂で写真を撮っていたら、白馬大池から登ってきた登山者と遭い、情報交換することが出来て一安心だ。
三国境への道に入ると雨は完全に上がり上空は明るくなってきて気分も乗ってくるのであった。三国境までは登山者が続々と登ってきた。三国境からは雪倉岳へザレタ砂礫の道をグングン下る。展望が利かないのが残念だが雨が止んだのがせめてもの慰めである。蓮華鉱山道への道を分けて鉢が岳の麓にはハクサンコザクラが見事に花開いていた。大きな雪渓を3度渡り、緩い傾斜を鉢が岳と雪倉岳の鞍部に下ると霧の中に雪倉岳避難小屋が姿を現した。今日はここで宿泊を覚悟してドアーを開ける。中には大阪の女性パーティとガイド氏10名ほどが先着していて団欒していた。
私は「お願いします」と声かけて、雨着を脱いで濡れた着衣を全部着替えてさっぱりする。早速持参した日本酒で体の中から暖める。私が到着して1時間もしない後、雨着も付けず全身ずぶ濡れになった単独行者が飛び込んできた。蓮華温泉から朝日岳・雪倉岳踏んで漸くここに到着し、「これから蓮華鉱山道を蓮華温泉まで下る」という。先着のガイド氏もそして5年前に鉱山道を歩いたことのある私も「とても無理だ。瀬戸川の渡渉も危ないから止めたほうが良い」とアドバイスする。青森から来た同年輩の単独行者は諦めて今晩はここに泊まるといって私の脇にマットを敷き、寝袋にもぐりこむのであった。結局これを機会に同宿者は早い夕食をとり、外は明るいうちに全員がシュラフにもぐり込むこととなった。夜間には又風雨が激しくなってきたのである。


大雪渓を登るうちに雨が降り出して霧深き白馬岳を通過


雪倉岳避難小屋に入り天候回復を待つが結局2泊する


7月26日
<雪倉避難小屋で停滞>

雪倉避難小屋の夜は悲惨なものであった。風の通り道に立てられた小屋は一晩中吹き荒れる風雨で悲鳴を上げる。ドアーの隙間から吹き込んだ雨で入口付近は水浸しである。誰もが眠られない夜を過ごしていることが良くわかる。
5時頃には全員起き出して外を眺めてはため息をついている。女性パーティのガイド氏が適切に判断して、「10時まで様子見をして今日の行動を判断する」と指示をしている。私は犬ヶ岳までの長丁場の予定の「今日の行動中止」を覚悟する。
9時を回る頃になると白馬岳を出た登山者が続々と休憩の為に小屋に寄る。「小屋付近が一番風が強い」と言っては雪倉岳から朝日岳に向かって再び出発して行った。
青森からの単独行者も「冷たい冷たい」と言いながら濡れた着衣を着て、ビニール袋を被って、「三国境・白馬大池越えて蓮華温泉に戻る」と言って出て行った。
10時になると大阪の女性パーティも「随分小止みにになったわね」と言いながら、ガイド氏に従って朝日小屋目指して出て行った。残ったのは私一人である。「何れ午後には縦走者が飛び込んで来るであろう」と思ったが結局朝まで私一人の貸切であった。午後からは時々青空も顔を出し、明日は絶対大丈夫だと思うと心も晴れて、小屋の周りのお花畑を散策する。誰もいないが素晴らしい景色に感激の時間を過ごすのであった。昨夜は殆ど眠れなかったが静かな夜は一人ゆっくりと休むことが出来た。
深夜外に出てみると月明かりがまぶしいほどの夜であった。


7月27日
<雪倉避難小屋〜雪倉岳〜朝日岳〜栂海新道〜犬ヶ岳〜栂海山荘>

雲ひとつ無い絶好の空の下、雪倉岳避難小屋を出ることが出来た。10分も歩かない内に、登山道にライチョウが出迎えてくれた。雪倉岳の山頂目指して高度を上げてゆくとどんどん展望が開けてゆく。40分で山頂に到着し、携帯電話で一日延期したことを自宅に報告を入れる。来た道を振り返ると白馬岳が大きく聳えている。そしてこれから向かう朝日岳方面は朝日に輝いている。今日は素晴らしい一日が約束されていて嬉しいばかりだ。先は長いので長居は出来ない。
雪倉岳を下るにつれてミネウスユキソウやミネアズマギクが見事なお花畑が開けている。そうは何回も来られない場所だと思うと、どうしてもカメラを向けたくなる。雪倉岳から最低鞍部に下り、赤男山を巻くようになると小桜ヶ原だ。ハクサンコザクラが満開で何回も立ち止まる。


3日目ライチョウの歓迎を受けて雪倉岳へ


雪倉岳山頂から朝日岳を見る






雪倉岳のお花畑を彩る見事な花


ハクサンコザクラが満開の小桜ヶ原の先朝日岳を目指す


朝日岳山頂付近もお花畑だ

朝日岳水平道分岐で朝日岳への直登コースに入る。厳しい登りで木の根につかまりながら登る。雪渓が現れると展望も開けホッとする。ザックをおろしてお花畑に見とれる。ここも見事なハクサンコザクラが群生していた。朝日岳山頂には丁度9時の到着となった。今朝、朝日小屋を出た登山者は既に無く、ひっそりとした山頂であって独り占めの感動が沸く。ここも15分ほどの滞頂の後、蓮華温泉方面の道に下り、9時40分には栂海新道分岐に到着した。登山道整備の作業員に挨拶をして栂海新道に入る。

「照葉の池」周辺の木道も整備中でヘリコプターが盛んに荷揚げをしていた。栂海新道の最初の山は平坦な台地の突起長栂山で、栂海新道の栂を取った山である。ここからはこれから下る栂海新道の一部を見ることが出来たが上昇してきたガスで全容は見渡すことが出来ない。長栂山でしばし休憩の後、栂海新道を下る。殆ど予備知識が無かったせいか、アヤメ平に続く黒岩平の高層湿原に驚きを感じながら感動の縦走を続ける。今日ここを歩いている者は私一人なのだろうかと不安を抱きながら進むと、泥濘には踏み跡も残り、先行している縦走者がいることを知り、少々安心である。黒岩平には小川が流れている絶好の休憩場所があった。丁度お昼時でここでザックを下ろしラーメンの昼食を取り休憩する。休憩をしていると後続の単独行者が現れてビックリする。彼は蓮華温泉から五輪尾根を登り、栂海新道に入ったそうで、私と同じく北アルプス主脈を日本海につなげているそうだ。
黒岩平を更に下ると登山道整備の作業員が5人ほどテントを張って、藪の仮払いをしていた。有りがたい事である。黒岩平を過ぎると緩い登りになって黒岩山に着き、朝日岳から下ってきた道が見渡せる。ここからはアップダウンを繰り返しながら「文子の池」・サワガニ山などを越えてゆく。ここら辺りから左足クルブシ上部に痛みを感じ始める。何回か立ち止まりながら縦走路を進む。前方には今日の終点犬ヶ岳が徐々に近づいてくる。
サワガニ山では先行していた男女4人パーティを捉えることが出来た。川崎市の中年グループである。サワガニ山からは緩く下り、犬ヶ岳に登り返す手前の鞍部には水場があり、沢を少し下って4リットルの水を補給する。犬ヶ岳への登りは疲れた体には厳しいものがあったが気力で凌ぎ山頂に立った。朝日岳から黒岩山までの道と黒岩平からアップダウンの続く稜線が手に取るように見渡せて感動だ。朝日岳の先雪倉岳も踏んできたことを誇りにも思うのであった。山頂が屋根のように平たい犬ヶ岳の稜線を50mほど歩き、10分ほど下ると栂海山荘に着いた。サワガニ山岳会管理の素晴らしい山小屋で毛布なども完備していた。朝日岳方面から下ってきた単独行2人(私も含め)と川崎の4人パーティが前後して小屋に入り、食事の準備をしていると反対側の日本海側から7人の中高年パーティが登りついて驚きであった。上から来た者・下から来た者、それぞれが疲労困憊で陽が落ちるのを待ちかねてシュラフに包まって横たわるのであった。


栂海新道へ入る27キロ先の日本海へ


照葉の池周辺は登山道(木道)修復中・そして長栂山へ


高層湿原のアヤメ平と黒岩平


黒岩山・サワガニ山頂


サワガニ山付近から栂海新道中間の犬ヶ岳への道


犬ヶ岳山頂から、朝日岳から下ってきた道を振り返る


犬ヶ岳山頂と栂海山荘から朝日岳方面を見る


7月28日
<栂海山荘〜白鳥山〜坂田峠〜親不知>

栂海山荘の夜は快適な一夜で、疲れもあってぐっすりと休むことが出来た。早朝3時半過ぎには同宿の単独行者が起きて、素早く食事を済ませ支度を整え4時過ぎにはまだ薄暗い登山道に入り下って行った。私も4時には起きて腹ごしらえをし、パッキングを済ませ、小屋を出る。丁度鉾が岳の山頂から御来光の上がる時間であった。
栂海山荘からは一気に高度を下げる。昨日から痛み始めていた左足は痛みが治まらず、この先が思いやられる。黄連山を越えて最初のチェックポイント菊石山には標準タイム通り1時間30分で到着しホッと一息つく。しかし左足の痛みは更に厳しくなる。登りは良いのだが下りと平坦地を歩くときが特に酷い。菊石山を下りかけてしばらくすると痛みに我慢できず、救急袋から湿布薬を取り出して患部に貼り付ける。時間を気にせずゆっくり下ろうと自分に言い聞かせる。
木の根につかまり、垂らされたロープを頼りに急坂の下駒ケ岳をよじ登る。ガレバに出ると犬ヶ岳から下ってきた厳しい道が見える。しかしそこからは更に厳しい白鳥山への登りとなっていた。痛い足をかばいながら、あえぎあえぎ何とか白鳥山山頂に登りつく。山頂には避難小屋が立っていて、昨日ここで休んだ登山道整備の作業員が準備をしていた。ザックを下ろしゆっくり休憩を取りながら作業員と懇談する。親不知までの時間を尋ねると「3時間半もあれば楽勝だ」と言う返事に意を強くする。
白鳥山からは泥濘の緩い道となって「山姥平」まで続いている。そして急坂を下って水場のシキ割りに着く。ここでも休憩し水分補給だ。標高が下がって、温度が上がってきていることが体感できるのである。坂田峠への樹林の急坂を下る頃には心配した雨も落ちてきた。内側からの汗で着衣はびしょ濡れであるが雨着を装着しない訳には行かない。ブナの大木の下で雨着を付ける。そんなロスもあって、白鳥山から1時間半と思っていた坂田峠には結局2時間を要してしまった。
坂田峠から先は「大したことは無いだろう」と高をくくったのであるが、これが大きな間違いであった。坂田峠には舗装道路も延びているので、「海岸線までそう遠くではない」と思ったのも頷けるのである。雨も強くなる中、傘さしながら緩い登山道を尻高山に登る。ここで雨も止み雨着を脱ぎ、ガイドブックで残りの時間を確認すると国道8号まで1時間半になっていた。「後は下りだけだな」と思うと気が楽になる。しかし、下りついた二本松峠からはまたまた登りになって入道山に続いていた。これが最後と入道山を登りきり下りに入る。更にそこからも2回のアップダウンが待っていて、気分はもう爆発寸前だ。「いい加減にせいよ」と、やけっぱちになりながら急坂を下り、送電鉄塔が見えてくると漸く、国道を走る車の音が聞こえてきた。
痛い足をかばいながら杉林を下りきると栂海新道入口の看板が立つ国道8号線天険隧道に到着した。栂海山荘からは8時間半・白鳥山からは5時間・坂田峠からは3時間掛かって、13時30分を過ぎていた。
親不知ホテルの前にザックを下ろし、自販機でジュースを2本買い求めがぶ飲みする。気温が上がってきていたので熱中症寸前の体調であることが自覚できる。もうここから高度差100mの「日本海の海岸までへ」は気力が起きなかった。以前ここから海岸までは下ったこともあるので「ま〜いいか」と言う気持ちになる。
息を整え洗面所で汗をぬぐった後、ホテルでタクシーを呼んだが手配できない。結局炎熱の国道8号線ををJR親不知駅まで歩くことを決断する。重いザックを背負い、夢遊病者のように国道を歩く。自販機があるとジュースを飲む。1時間の道を1時間20分かけて親不知駅に到着すると、糸魚川行きのローカル電車が直ぐに来て、休む間もなく乗り込むことが出来たのは、今日たった一つの幸運であった。
糸魚川駅に着いた後は、無人のホームの片隅で着衣を着替え半ズボン姿になり、サンダルに履き替える。大糸線の発車まで1時間半以上もあるので駅の外に出てビールを飲みながら食事を取る。糸魚川は丁度夏祭りで賑わっていた。17時40分の大糸線に生まれて初めて乗り、南小谷で乗り換え、白馬駅に来ると日も暮れていた。八方第5駐車場にタクシーで走り、車を回収し、自宅には20時30分の帰還となった。

左足クルブシの痛みはいまだに引いていません。


栂海山荘で鉾が岳からの御来光を見る


厳しい縦走路の菊石山・下駒ケ岳山頂


下駒ケ岳のガレ場から犬ヶ岳を振り返る


日本海まではまだまだ続く白鳥山・尻高山


漸くたどり着いた栂海新道の終点国道8号の栂海新道入口とJR親不知駅

 

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