イドンナップ岳 | イドンナップ | 標 高 | 1753m | 日本の山1000 | 山 域 | 日高山脈 |
登 山 記 録 | |
登山月日 | 2015年7月11日 |
登山経路 | 新冠ダム横登山ポスト4:00〜林道終点登山口4:30〜売山のコル5:50〜第二岩場7:10〜1450mトラバース地点7:50〜新冠富士10:05/10:25〜イドンナップ三角点11:40〜最高点12:20/12:40〜新冠富士14:30/14:45〜トラバース終了16:40〜登山口付近の沢19:40/20:20〜登山ポスト21:20 |
行動時間 | 登り 8時間20分 下り 8時間40分 合計 17時間20分 (休憩時間・ロスタイム含む) |
天 候 | 晴 |
メンバー | 単独 |
情 報 | |
アクセス |
岩清水の集落から新冠ダム奥まで約30キロのダートの林道 ダム横の登山ポストから先はゲート規制されていた |
トレイル | 道はあって無きが如し 新冠富士から先は小灌木の中赤布追う |
水場・トイレ | 水は登山口で沢水取れるが飲用は?トイレはない |
その他 | 命を落とす寸前であった |
山行記 (左)イドンナップ 新冠富士から (右)カムエクなどの日高主峰群 (左)カムエクから右方面は1839峰など・(右)イドンナップ三角点 一昨年新冠富士直下でテントを張ったが天候悪化でイドンナップアタックをあきらめて下山した苦い思いのあるイドンナップ岳再アタックである。 前日苫小牧で大平山で紛失したスマホを再発給してもらった後、新冠町のサラブレッド牧場から長いダム管理道路・林道を走って、新冠ダム湖畔のイドンナップ入山ポストのある駐車場に車をつけた。今回は一昨年のような新冠富士までテントを担いで上る自信がないので、軽荷のザックで日帰り登山にした。春先から長時間の山行のテスト山行を重ね、15時間くらいなら歩ける自信はある。駐車場所で車中泊して翌朝早く出発予定である。 翌朝夜明けとともに起きると、隣に2台の車が着いていた。私以外にイドンナップ岳を目指す者がいると思うと心強かった。食料・水・ツェルトなどの入ったザックを担いで4時には登山ポストに記帳して林道ゲートに入った。一昨年はこの先1.5キロくらいまで車が入れたのだが林道の荒れが酷いのか、入口で規制されていた。この先2ケ所ほどの徒渉地点も水量少なく飛び石伝いで渡れた。30分ほどで林道終点に着き、小沢沿いの登山道に入る。15分ほど小沢を遡行していよいよ本格的登山道に入った。2年前の記憶はまだ鮮明で、この先も読めるので余裕である。笹薮が煩い売山のコルを過ぎて、開けた場所で朝食を取った。あとはダニの恐怖を感じながらも笹薮かき分けて尾根を忠実に登り上げて行き、第一岩場・第二岩場なども越えてゆく。適度に休憩をはさみながら駐車場所から4時間で直登の尾根を登りあげ、トラバース道に入った。トラバース道はまたひどい藪が被さり、なかなかペースが上がらない。結局駐車場所からは6時間かかって10時に新冠富士に着いたのである。まだまだここまでは余裕があった。新冠富士山頂はカムエクや1839峰など日高山脈の主峰が輝いていて圧巻である。 新冠富士にツェルトなどデポし更に軽荷にしてイドンナップへの稜線に入った。ハイマツや小灌木の中に少しは切り開かれてはいるものの赤布を追いながらの藪漕ぎが続くのである。10分も進むと藪の中に登山者が現れてびっくりする。私の隣に車をつけた若者で、「駐車場で休むことなく2時半に出発してイドンナップ踏んできた」「新冠富士からイドンナップまでは往復3時間半くらいだ」と言って下って行った。まだ余力の残る私も意を強くして藪を漕ぎながら前進するが、心配の種が湧いてきたのはこの辺りからであった。ポカリ1リットルと水1リットルしか持ってこなかった飲料が底をつき始めたのである。おまけに今日は北海道も猛暑日で、日高山脈の稜線でも強烈な日差しが照りつけている。大量発汗で水無しでは行動できない。それでも三角点を踏みイドンナップ最高点までは新冠富士から2時間弱で到着し、帰りの時間も読めればそれほど心配することはなかった。 イドンナップ最高点でしばし休憩の後往路を戻る。下山と言っても新冠富士までは藪漕ぎの道でそれ程の時間短縮はできない。結局登りと同じ2時間弱かかって新冠富士に戻ってきたのであるが、完全にポカリも水も無くなっていた。水さえあればツェルトで山中ビバークしても良いのだが・・・。「トラバース道に沢があったので少し下れば・・・」などと希望を持って新冠富士を後にした。時間的にはまだ余裕はあった。トラバース道の沢筋を少し下ったが水音はしない。完全にグロッキー状態で登山口からの直登の尾根に戻ってきた。「まだ17時前だ、とにかくあと3時間で下れば水の流れる小沢に出る」と行動を続ける。下りではあるが15分も連続で歩けないほど体力は消耗していた。遠くに沢音が聞こえればそちらに藪かき分けて入り込みたくなる衝動に掛かれるのであるが、まだまだ理性は失ってはいないようである。ダニの恐怖なども忘れて藪の中にへたり込みながら休憩する。座っていると睡魔も押し寄せてきて、頭がカクンカクンと前に垂れるのである。「あぁ俺はここで死ぬのかな」という思いが湧くのであった。脱水症状で「オェー」とこみあげても、唾が出ないのでせき込む。登り返しはさらにひどく前に進まない。それでも第二岩場・第一岩場を下って売山のコル付近まで来ると日が暮れた。「もうすぐだ!」先が読めると少しは元気が出てきた。完全に日が暮れたころようやく登山道入口付近の小沢にたどり着いた。「助かった!」と思ったのはこの時であった。時間を確認する余裕はなかったが20時を回っていたと思う。 ペットボトルに沢水を汲んで一気に飲み干す。なんと5杯3リットルの水を飲んだ。みるみる生気がみなぎってきた。大きなフキの葉っぱの陰で肩で息しながら30分ほどはへたり込んでいただろうか。辺りはもう真っ暗であるがヘッドランプを点け小沢を慎重に下り始める。あれほど弱っていた体力も心配ないほど回復していた。というより気力がそうさせたのかもしれない。小沢から林道跡に出ると完全に生還を実感できて涙が出るほどであった。林道跡から林道終点まではすぐであって、後は駐車場所までの2キロほどの林道をヘッドランプの明かりを頼りに歩いた。徒渉地点は濡れるがままである。駐車場所の登山ポストに着いたのは21時20分であった。朝4時から夜9時までの17時間の強行登山であったが命を落とす寸前のイドンナップ岳再アタックではあった。 試練はこれで終わりではなかった。 駐車場所で着衣を脱ぎ着替えを済ませた後、「とにかくこの恐怖の山中から早く脱出しなければ」と思い、30キロの林道・管理道路をサラブレッド牧場付近まで下ろうと思ったのである。駐車場所で車を転回しようとバックすると車両後部を思いきり登山案内看板の支柱にぶつけてしまった。降りて確認すると後部バンパーが破損し車体から脱落していた。何ともならないので今夜の山中脱出は諦め車に乗り込み酒をコップ2杯ほど煽ると疲労と睡魔で(食事もとらず)一気に爆睡状態に陥ったのである。翌朝損傷個所を点検すると、何とか車両本体に取り付けることが出来た。ガムテープで固定して山中をゆっくりと下って脱出したのである。 今考えれば、あの理性を失いかけたまま夜道を走ったら、疲労により林道途中から谷に落ちているか、大木に衝突していたたかもしれないと思うので、「愛車が自分の行動を止めて、助けてくれたのだ」と思っている。 更に悲劇は続くのであった。 翌日は休養日として「様似ふれあいビーチ」で休養した。体中が虫刺されでかゆいのでビーチの監視人に見てもらうと笹ダニ(マダニ)が数匹食い込んでいるのを発見してもらった。日曜日であったが浦河の日赤が救急受入れしていることを教えられ、10キロほど走ってダニの除去手術を受けたのである。 (左)三角点から見る最高点・(右)最高点から見る三角点 (左)最高点から続く稜線・(右)遠くに見えるヤオロマップ |
イドンナップ敗退の記録
新冠富士 | ニイカップフジ | 標 高 | 1667m | 日本の山1000 |
山 域 |
日高山脈 |
登 山 記 録 | |
登山月日 | 2013年8月27日〜8月28日 |
登山経路 |
第一日目 |
行動時間 | 第一日目7時間 第二日目5時間20分 合計 (休憩時間を含む) |
天 候 | 第一日目曇/霧雨 第二日目曇 |
メンバー | ほろしり氏と2人 |
情 報 |
|
アクセス | 新冠ダムまで20キロ、登山ポストまで11キロ その先2キロ地点までも砂利道の林道 |
トレイル | 藪が被さる煩い登山道だが道迷いの心配はなかった |
水場・トイレ | 水は沢水取れるが飲用は? トイレはない |
その他 | 目標のイドンナップまで届かず無念の敗退 |
山行記 第一日目
新冠町の泉集落を過ぎると新冠ダムに続く管理道路となり20キロ以上も砂利道を走って新冠ダムに着いた。イドンナップ登山ポストのある林道分岐には更に新冠湖の湖岸道路を10キロ以上走った。登山ポストで記帳し登山口に延びる林道に車を進めたが3度目の沢を渡ると進入不能となり、車の底を擦りながら方向転換して道路脇の駐車スペースに車を止めた。数日前遊楽部岳で交差した登山者からの情報を鵜呑みにして登山ポストから林道に入ったが、やはり登山ポストから歩くのが正解である。 新冠富士で幕営し、翌日イドンナップを往復した後下山する計画である。幕営道具と水5リットルを担ぎザックが肩に食い込むが念願の日高の難峰イドンナップを踏めるかと思うと気合が入るのであった。林道跡を20分ほど進むと小さな沢沿いに赤布を見つけイドンナップへの登山道を行くようになる。沢沿いを外れると広い登山道が開けていたが藪が被さる道であった。登山道に入ってすぐに雨が降ってきて慌てて雨具を着た。そして藪に被さる雨露浴びて売山のコルに着く頃にはびしょ濡れになってしまった。売山のコルからは尾根伝いの登山道を忠実に登ってゆくが幾つかの小ピークを越えてアップダウンが連続しているのであった。第一岩場・第二岩場などは緊張するほどのこともないがロープが下がる急坂でもある。1時間に一本立てながらほろしり氏と次第に寡黙になりながら歩き続けた。標高1400mを越えるあたりからトラバース道となり笹薮掻き分けながら笹に足を取られながら悪戦苦闘する。やがて草付きの中を直登して稜線に登りあげる。既に歩き始めて6時間以上立っていて雷鳴も轟き小雨舞う中である。稜線に登りきった後は、「先に行ってテントを張る」と今まで後ろについていた私が先に立つ。新冠富士山頂に幕営しようと思ったが山頂直下の膝丈までの笹原にテントが張れそうなので、後ろに続いていたほろしり氏と2人そこにテントを張った。テントを張り終わると同時に本格的雷雨が降り始め慌ててテントに潜り込んだ。濡れた着衣を着替えると生きた心地がするのであった。濡れたものはビニール袋に収め、コンロを出して持参したお酒を温めて濡れて冷えた身体を中から温めた。簡単な夕食を取りながらしばし談笑して明日の好天を祈りながらシュラフに潜り込んだのである。 第二日目
一晩中降り続いた雨も朝方には上がったが外は霧でホワイトアウト状態である。今日の行動はどうするかとほろしり氏と作戦会議である。ここまでテントを担ぎ上げたのだからなんとしても往復5時間のイドンナップに登ってから下山したい思いも強い。しかし濡れたものは乾かず登山靴も靴の中までぐしょぐしょである。この先は更に酷いハイマツ帯を漕いで行かなければならないから、またまた濡れるがままになるだろう。そして濡れたままの行動では一番心配なのは低体温症である。色々なリスクが頭に浮かび結局イドンナップ岳アタックは断念した。 ラーメンの朝食をとった後、テントを撤収しパッキングを済ませ、すぐ上と思われる新冠富士を目指すと10分もしないうちに山頂に着いた。山頂にはテント一張り晴れる空き地もあったが昨日の雷鳴の中では危険であったかもしれないと思った。山頂からは霧が晴れた日高山脈の展望が開けていた。イドンナップは尾根伝いにすぐそこに見えて断念したことに悔いが残るのであった。カムイエクウチカウシ山や幌尻岳なども特定できて懐かしいばかりである。3日後にはコイカクや1839峰の山頂に立っているという思いがあれば、きっぱりとイドンナップアタックをあきらめることも出来たというものである。新冠富士山頂の写真を取った後、幕営地に戻り5リットルの飲料水の分水を含んだ幕営道具を担ぎ、今日もまた雨露でびしょ濡れになりながら笹薮掻き分けて往路を黙々と下ったのである。 5時間半もかかって駐車場所に下山すると、下界は晴れていたが山中には霧が掛かったままであった。「いつか又という想いのイドンナップ岳であるが、そのチャンスがもう私にはそれほど残されていない」と思うと傷心に駆られながら長い管理道路をサラブレッド牧場に下った。 悪いことは重なるもので管理道路を走っているときに後輪がパンクしてタイヤ交換に一汗かかされた。
|