山行記
1日目
深夜2時に家を出る。月夜野町には4時過ぎに着いた。コンビニで食料を調達し、水上温泉を過ぎて土合の駅には5時前に到着した。
土合の白毛門登山口を確認したあと、駐車場で腹ごしらえをする。トイレやパッキングを済ませると出発は5時半になった。今日は急いで山登りをする理由もない避難小屋泊まりであるから、余裕の出発である。駐車場の奥が白毛門の登山口になっていて、登山ポストが設置されている。小沢に掛かる小さな橋を渡るとそこが白毛門への登山道になっていて、いきなりの急登が始まる。樹間の中、足を滑らせながら登りはじめると、たちまち汗が噴き出してくる。30分に1本は立てなければとても息が続かないのである。休憩ポイントもあるわけが無く、息が切れたら登山道に腰を下ろすしかない。途中キャンプ道具を担いだ同年輩氏を追い抜いて先を行く。その代わり、犬を連れた地元の登山者が余裕の歩きで追い抜いて行く。何回か息を整えながら2時間で松の木沢の頭に到着。振り返ると対岸の天神平と肩を並べる高さまで登っていた。高曇りの空の下、谷川連峰が堂々と聳えている。しばらく休憩をはさみ樹林の切れた草付の中を登る。一部露岩の草付を登り切ると、標高1700mの白毛門山頂であった。ようやく山頂稜線にたどり着きホッと一息入れる。行く手には笠ヶ岳や大烏帽子が見える。目指す朝日岳は、まだ烏帽子の陰に隠れていて、見て取ることが出来ない。笠ヶ岳への登りも厳しいもので砂礫の登山道は足を取られやすく、体力が消耗する。何とかこらえて笠ヶ岳を踏むと大烏帽子の左肩に朝日岳山頂が見えてきた。まだまだ先がありそうだ。
ここまでの体力の消耗は激く、烏帽子に登る途中でついにシャリバテを起こす。腹が減ってはどうにもならない。大烏帽子の岩陰で、おにぎりといなり寿司をほおばると勇気百倍となった。小さなアップダウンを何回か重ねながら朝日岳山頂には正午過ぎに登り付くことが出来た。最近はせいぜい3時間程度の山しか登っていなかったので、随分と疲れを感じたが又登り切ったという達成感は有った。
谷川岳と肩を並べた高さではあるが曇り空で展望は今ひとつである。山頂の東側は湿原になっている。隣にはジャンクションピークが聳えている。宝川温泉から登ったいう単独行者が休んでいたがすぐに下っていった。山頂でゆっくり休憩を取っていると、後続の2名が喘ぎ喘ぎ到着した。途中で追い抜いてきた二人で、今夜は清水峠の同宿者になるのである。1時間の休憩の後、ジャンクションピークに回る。
下りかけたところに巻機山への分岐点があり、標識も付いていたが、「道は無し」と書かれていた。少し入ってみると直ぐに薮の中であった。
残雪期にここから縦走を楽しむ者がいると聞いているが、まさしく残雪期でなければ歩くことの出来ない道である。
あとは前方・下方に見える清水峠のJR送電監視所の建物をめがけて小灌木の急坂を下るのみであった。
白崩避難小屋はJRの巨大送電用鉄塔の近くにあって、鉄塔監視所の近くに有った。午後3時に到着し後続の2人を待っている間に反対方向の蓬峠からも3人のパーティが到着したりして、結局ここに泊まったのは8人で、1人は小屋の脇にテントを張った。日の長い時期とは言え、午後6時半頃には寝袋に潜り込むと睡眠不足と疲労によりあっという間に爆睡状態に陥るのであった。
2日目
小屋の小さな窓から薄明かりが漏れ始めると朝4時過ぎである。疲れ切った体をぐっすり休ませることが出来て、すっきりした目覚めである。外に出てみると雲一つない青空が広がっている。私に続いて皆起き出して、好天に心躍らせている。今日、馬蹄形を左回りに回る者は、私と地元のO氏、それに30代の若者2人組である。逆回りに朝日岳を目指して白毛門から土合に下る者も4人で、丁度半分に分かれた。
朝食もとらずに出発する2人組を見ると、私も蓬ヒュッテで朝食にしようと縦走路を七つ小屋山を目指す。
チシマ笹の笹原に切られた登山道は朝露を含んでたちまち着衣が濡れる。私はそれも承知の上であるから、雨着のズボンをつけている。緩い登りを少しがんばると七つ小屋山の山頂に着いた。蓬ヒュッテから来た登山者と行き交う。私はここで朝食をとる。朝食と言っても昨夜の余りご飯にお茶漬けと言う粗末な物だが、これが今日1日の活力となるのである。
蓬峠までは気持ちの良い下り気味の稜線で谷川連峰がぐんぐん迫りくるのであった。
七つ小屋山から50分で蓬ヒュッテに到着した。既に登山者はみんな出発したあとで管理人が朝の掃除をしていた。ここでトイレを拝借する。利用料は100円ではあるが有り難いことである。更に縦走路を5分ほど進むと水場がある。今日も沢山水を必要としそうなので縦走路から10分ほど土合側に下った水場で2リットルの水を確保する。
武能岳への登りは、所々に急坂があるが、それを登り切ると山頂稜線が緩やかに続く。迫りくる谷川連峰と後方の朝日岳や巻機山がたおやかな笹原の稜線の先に望まれて素晴らしい展望である。更に登山道脇にはハクサンコザクラやニッコウキスゲが花開いて心を和ませる。
武能岳山頂で休憩していると反対方向から来た団体が賑やかに到着し、折角の大展望も少し興ざめとなる。ここで雨着のズボンを脱いで身軽になって、いよいよ谷川連峰の茂倉岳を目指す。茂倉岳へのプロローグはアルペンムードが漂う稜線歩きが30分は続く。登り口には大きな岩場があり、ここで休憩し一気に茂倉岳を駆け上がるのであった。標高差約300mを3回息を入れて登り切る。
今朝、清水峠の白崩避難小屋を出発した4人が同じ時間に茂倉岳山頂に立っているのであった。
私はここで昼食のラーメンを作る。あとの3人は茂倉岳避難小屋に向かい、水を補給すると言って避難小屋に向かった。昨日から歩いてきた白毛門から朝日岳に続く馬蹄形の縦走路が手に取るように見える。「いくつのピークを踏んできたのだろうか、良く歩いてきたもんだ」と自分でも感心する。
土樽から茂倉新道を登ってきた登山者と情報交換しながら40分ほど休憩をとる。
一の倉岳への稜線には高山植物がきれいに咲いていた。一の倉岳山頂からは今までの登山道とガラリと趣を変える。左に荒々しい一の倉沢の絶壁を眺めながら急坂を転げ落ちるように下る。鞍部jから谷川岳に登り返すと一の倉沢の核心部をのぞき見るその名も「覗き」を通り過ぎる。最後の力を振り絞って谷川岳最高点の「オキの耳」に到着した。
今日は谷川岳の開山祭で、大勢の登山者が花を愛でたり、写真を撮ったり、スケッチを楽しんでいる。対岸に見える朝日岳とは比べものにならない賑やかさで、少しうんざりするのであった。トマの耳に回れば、更に人で溢れていた。気がつけば、何時とは無しに昨日から一緒に歩いた群馬県境町のO氏と肩を並べて、長かった縦走路を振り返るのであった。
トマの耳からは西黒尾根を下りる体力も失せて、ロープウエィで下ることにする。疲労困憊の体に鞭打ちながら、天神平までの急坂も最後の力を振り絞る。そして熊穴沢小屋からの平坦な登山道をゆっくり歩く。
天神平からロープウエィに乗ると、昨日の朝よじ登った白毛門への急坂の尾根が目の前であった。
ロープウエィ山麓駅に下りて、O氏と再会登山を約して馬蹄形縦走を締めくくったのである。
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